円形脱毛症患者の苦悩は、誰にも打ち明けることができません。たとえ家族にでも、です。症状がひどかった頃は、毎日が地獄でした。「死んだ方がまし」と思ったことも、何十回あったでしょうか。私の脳裏にはいつも、汽車に轢かれて頭が原型をとどめないほどに破壊されて線路の上に横たわっている血だらけの自分が浮かびました。
これだけぐちゃぐちゃになれば頭のハゲをみんなに見られなくて済む。本当にそう思っていたのです。ただ、心残りは年老いた両親とたった一人のかわいい妹のことでした。自分がそんな最期を遂げたら、みんなどんなに悲しむことか。彼らのことを思うたびに、私は死ぬのを明日に伸ばしていました。
ところが、神様というのは本当に存在するものです。ある日のこと、帽子を目深に被って新宿をぶらついていると、むこうから顔にとんでもなく大きなアザのある女性が歩いてきたのです。アザはけばけばしい色をしていて、お化粧などでは到底隠せないシロモノでした。
女性は30歳前後、というところでしょうか、エレガントなスーツを上品に着こなし、いかにも優雅に顔を高く上げて闊歩していました。
自分はなんと意気地のない人間なのだろう、と私は心から反省しました。たかがハゲぐらいで悩んでいる場合じゃない、俺は男ではないか、だいたいハゲなら帽子でかくせばいいじゃないか、カツラだってあるんだし、と、心の奥底からふつふつと元気が湧き出てきたのでした。自分の悩みがハゲ程度でよかったとさえ思い、天に感謝した次第でした。







